名探偵という職業は聞こえ良いけれども、下手すると何でも相談されるようになります。
Mikanお嬢様から「私の眼鏡はどこか知らない」と相談されて、「それは今、お母上がご利用になっています!」というのはマシな部類に属します。
(親子で視力が遺伝しているのか知らないけれども、実は両者の近視度は似たり寄ったり)
そもそも大抵の場合、状況を整理することが出来たら、事件は自然に解決します。あのシャーロック・ホームズも述懐しているように、「別に特別な才能や知能は必要ない」のが名探偵です。
ウソだと思うならば、今回は実際に幾つかの例をとって試してみることにしましょう。
“メールが来ない” 事件の謎
事件は2月3日の節分の夜に発生した。
よつば探偵の部屋を、奥さまが訪問したのである。
「あの、変なのだけれども … 」
さすがにこれだけで全てが理解できたら、名探偵ではなくて超能力者とか異能者となってしまう。ただの名探偵に過ぎない彼は、問いかけをした。
「変とは、いったい何がおかしいのですかな?」
部屋の入口に立ったまま、奥さまは「実はメールアドレスのことなんだけれども … 」と、話を続けた。
なんでも彼女はMikanお嬢様のために、上靴を注文したらしい。しかし注文完了のメールが返って来ないというのだ。なんだか数か月前にも聞いたような … と、いうか、数か月前にも同じことがあった。よつば探偵が注文することで、その時は収まった。
「どうも私のメールアドレス、おかしいのかな? メールアドレスの入力が良くないのかな?」
いや、おかしいのは君の頭だというのは失礼なので、よつば名探偵は解説を始めた。
「よろしいですかな、奥さん。まずは状況を整理しましょう。あなたが利用なさっているのはEZWebメールです。したがって四通りの可能性があります。
よつば名探偵は、説明を始めた。
- そもそも返信メールが送られない仕掛け
- まだ返信メールが送られていない
- メールアドレスの入力が良くない
- 返信されて来たメールアドレスが受け取れていない
「まず誰もがメールアドレスを使えるとは限らない。だからインターネットで注文で注文してメールアドレスを登録しても、注文完了メールが送られて来ないことがあります。これはメールアドレスの利用条件の解説をキチンと読めば分かるでしょう。必須でなければ、そのように記述されています」
なんだか今度も話が長くなりそうな雰囲気だ。
「二つ目は『まだ返信メールが送られていない』という可能性です。あなたはコンビニ決済で注文をなさった。利用したシステムが、入金確認時にメール送信するようにシステム設計されている可能性があります」
奥さまは無言で、よつば名探偵の話を聞いている。
「三つ目はメールアドレスの入力が正しくない可能性です。しかしこれは、自分宛にアドレスを直書きする形式でメールアドレスを書けるか試せば良いでしょう。もしくは宛先簿から、自分のメールアドレスをコピーすれば良い」
よつば名探偵は、さらに話を続けた。
「そして奥さんはEZWebメールアドレスを利用している。これは携帯会社のメールアドレスなので、返信メールアドレスによっては受信を拒絶することもある。今のところ分かっているのは、私の会社アドレスからのメールや、昔から使っているパソコン用メールアドレスは使えるということです」
「ふーん」
ITの話になると、彼女の反応は鈍くなる。苦手意識があるのかもしれない。
「と、ともかく … 」
よつば名探偵は何かを払いのけるような仕草をしてから、話を続けた。
「パソコン用メールアドレスを取得しましょう ….. 終わりました。明日の昼過ぎから使えるようになります!」
どこぞの漫画の登場人物のように「猪突猛進ー」とは声に出さないものの、相当な速さだ。
ともかく、この新アドレスをコピー&ペーストして利用すれば、メールアドレスの入力が間違っているということは起こらない。そして携帯メールアドレスのような受信制限はないので、あとは返信メールが送られて来ないと考えれば良い。
これで事件は一件落着 … することだろう。
(確かに普通はコンビニ払いだと、バーコードなどが表示されますな。何かがおかしい気がする ….. )
“ダウンロード” 消失事件
次の事件は、またしてもメールに関連するものだった。
よつば名探偵のところに、母親から返信メールが届いた。「ダウンロードって何?」というものである。
彼には全く心当たりがないように、きょとんとした目つきをした。こういう時は、普通の人ならば「『ダウンロードって何?』とは何?」と言いたいところだ。
しかしさすがに紳士である彼には、母親に無遠慮な真似はできない。やむなく彼は、電話の受話器を手に取った。
「あ、お袋さんですか ….. 」
どうやら彼の母親は、メールがサーバコンピュータのメールボックスに貯まるということが理解出来ていないらしい。30分ほど説明して、ようやく話は本題へと移った。
「つまりメール本文の下の方に、『ダウンロード』という表示が出る訳ですね」30分近く説明した影響なのか、彼の声はかすれていた。
「それは領収書のデータです。金額はメール本文に書いた通りだから、お袋さんは本文だけ読めば構いません。領収書の内容チェックは、メールが同報されている弟がやってくれます」
「同報って何?」
「あなたが今年の正月に帰省するなと三兄弟にメールを送った時、三人に1つのメールを送ったでしょ。複数人に同じメールを送ることを『同報』と表現するんですよ」
「あんたの言うことは、ちっとも分からないわ!」
読者はお気づきの通り、ダウンロードというのはスマートフォンなどの受信メールと同じで、端末にダウンロードされなかった添付ファイルのことである。読みたければダウンロードしろという意味で “ダウンロード” と表示されるのだが、電話でパソコン初心者の母親に説明するのには無理があった。
しかし …… 一人住まいしている孤独な老人を無下には出来ない。溜息をつくと、彼は今度は「同報」の意味を説明し始めた。
その晩、彼は一体どのくらいの時間を電話に費やしたのだろうか。よつば名探偵が口を閉ざし続ける限り、誰も知ることは出来ないだろう。
まとめ
自分には何が分かっていて、そして何が分かっていないのか? これが理解できれば、あなたも名探偵の仲間入りです。
しかし別に名探偵でなくて構わないから、この手の説明や対応は勘弁願いたいところです。
(旦那や息子よりも娘や孫からの説明の方が嬉しいだろうから、Mikanお嬢様に任せますかね?)
それでは今回は、この辺で。ではまた。
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記事作成:小野谷静 (よつばせい)