性能的には非球面レンズの方が良いです。特にレンズの度数が上がる(下がる)ほど、中心以外は歪んで見えるようになります。予算に余裕があれば、非球面レンズを選ぶのが当たり前です。
しかし球面レンズだからといって、「全くダメダメだ!」というようなこともありません。だから今でも球面レンズが販売されているし、私もこの解説記事を、冒頭画像のボストン眼鏡で書いている訳です。
2022年2月23日時点で、ブルーライト低減加工まで施されているのに、眼鏡フレーム込みで「なんと4,198円!」です。自分史上で最安値プライスでの眼鏡です。「球面レンズ、万歳!」です。
それではどんな時に、球面レンズを選ぶのが良いでしょうか。タネを明かせば簡単ですけれども、球面レンズを選択しても良い場合を解説させて頂くことにします。
球面レンズと非球面レンズ
球面レンズとは、基本的には虫メガネと同じです。レンズの曲がり具合などは精巧になっているけれども、なだらかな表面をしています。
見え方も、虫メガネと同じです。レンズの中心を、見たいものの上に動かして、拡大された映像を観察する。実に便利です。
ただし球面レンズはタテヨコにマス目を描かれた方眼紙などの上に置くと分かるように、中心部分から離れるほど、見えるものが歪んでいきます。倍率が低ければ目立ちませんけれども、高倍率になるほど、ハッキリと歪んで見えるようになって来ます。
一方で非球面レンズは、こういった球面レンズの課題を改善するために、非球面な表面になっています。だから同じ倍率で見た場合には、球面レンズよりも遥かに歪みが生じません。
ただし非球面レンズは、非球面な表面加工をするため、どうしても手間がかかります。だから製造コストがかかることが多く、球面レンズよりも高価になってしまうことが多いです。
昔はレンズがガラス製だったりしたし、眼鏡は高価なアイテムでした。球面レンズにしても、数千円で販売されるようになったのは、ごく最近のことです。
我が家の子供の初メガネは、もちろん球面レンズでした。それでもレンズ代だけで2万円かかりました。眼鏡フレームが数千円で購入できるようになったのも、けっこう最近の話です。だから昔は、よほどの近視でない限り、非球面レンズは選びませんでした。
しかし… テクノロジーの進歩は大したものです。今では複雑な非球面レンズの設計も、コンピュータの力を借りて低コスト化しています。それから「戦いは数だよ、兄貴!」と言われたように、大量生産による製造コストや原材料費などの低コスト化も進みました。
テクノロジーの進歩により、加工機械も進歩しただけではなくて、日本からタイなどの海外工場へオーダーを出すことも容易になりました。だからJINSなどでは、一般的なフレームのメガネだったらば、非球面レンズを5,500円 (10%税込み価格) で販売できるようになっています。
(遠近両用レンズとか中近両用レンズなどでも、11,000円 (10%税込み価格) です。昔を知る者には、感慨深い時代になったものです)
ただし、ここで注意した方が良いのは、メガネの製作は、完全自動化されていないということです。眼鏡店では職人さんが、あなたの眼の状態などをチェックして、予算などの相談に応じながら、フレームやレンズの設定を提案してくれます。
たしかに球面レンズに比べると非球面レンズの方が、一般的には高性能なレンズとなります。しかし多くの人々に採用された実績を持つ良質な球面レンズを、その球面レンズのことを熟知している、腕の良い眼鏡職人が検討&加工したメガネは素晴らしいです。新米の職人が非球面レンズを使った場合よりも満足されることもあります。
某アニメの「どんなに威力のある兵器でも、当たらなくてはっ!」というセリフの通りで、まだまだ球面レンズには活躍できる場所が残っているのです。それが次から紹介する三項目になります。
高性能が必要ない場合
虫メガネの例で紹介したように、倍率が高くない場合には、非球面レンズのような高性能レンズを使う必要はありません。どちらでも大差なくて、価格的には球面レンズの方が低コストで済みます。
例えば我が家の子供の場合、加入度数が-4.0程度の近視になってから初めて、非球面レンズを使い始めました。ちなみに近視がひどくなるにつれて、乱視も無視できなくなって来ました。乱視がひどい場合も、非球面レンズの性能が必要となって来ます。
逆に言えば、そこまで行っていない場合は、非球面レンズでも球面レンズでも大差ないのです。私のボストン眼鏡は、右も左も+0.50であり、右目に至っては乱視矯正が必要ありません。
そしてZoffの阿合は、ブルーライト加工した度入り球面レンズは、Zoff製の眼鏡フレームであれば、3,300円 (10%税込み価格) で製作して貰えます。(2022年2月23日時点)
非球面レンズではJINSが有名ですが、さすがにブルーライトまでは対応困難です。
例えば3,300円 (10%税込み価格) の花粉症メガネだったらば、2,200円 (10%税込み価格) で、度入り非球面レンズを製作して貰えます。しかしブルーライト低減の加工には、さらに5,500円 (10%税込み価格) が必要となります。
したがって非球面レンズが持つ高性能スペックを必要としない場合は、球面レンズの方が良い場合も存在します。
(ちなみに子供が球面レンズにしたのは、眼鏡フレームがLindberg Air Titaniumだったからです。残念ながらJINSやZoffといった量販店では、なかなか取り扱いが難しい特殊フレームです)
小さい玉型の場合
最近はボストンのようなレンズ玉型の大きなフレームが人気ですけれども、これは球面レンズには向いていません。レンズの中心部に近い部分だけを利用する “小さい玉型” の方が、歪んで見える部分は減少します。
ちなみに冒頭画像の眼鏡フレームはボストンですが、Mサイズ(中サイズ)だったりします。だから度数が低いこともあって、球面レンズでも快適なのです。
(それでもZoffショップでは、スタッフがメガネフレームの大きさを慎重にチェックしてから、「球面レンズで作りましょう!」ということになりました)
ところで少し話は逸れますが、小さいレンズ玉型の方が、嬉しいこともあります。それは矯正度数が大きな場合であっても、他人から見て、そのことが気付かれにくいのです。
私の友人連中は他人からの見え方を気にしていませんが、斜めから見るとレンズ部分だけ顔がへこんだように見えます。最新型の高級レンズでは改善が進んでいると聞きますが、それでも小さいレンズの方が目立ちません。
もちろんレンズが小さい分だけ視野は狭まりますが、歪んで見える部分も減少する訳です。我が家の子供はオーバルと呼ばれる、楕円形レンズを採用していました。四角いスクエア型のレンズ玉型は、球面レンズには不向きだったりします。
遠くを見ない場合
私の場合、読書用メガネも所有していますが、それも球面レンズで作成しています。見る場所が限定されているので、倍率の高い虫メガネみたいなものですけれども、歪みが殆ど気にならないからです。
メガネで見る場所が固定されているのも、球面レンズで大丈夫である理由の一つです。遠くを見る場合は視野が動くにつれ、歪んで見える部分も動きます。そういったことが、見る場所が固定されていれば生じません。
歪みというのは、本当に見たい状態とは違っているため、脳が歪んでいると認識する訳です。それが動くというのは、なかなか辛いものがあるかもしれません。
(さすがに試したことがないので、この部分は実感を持って語りにくいです)
都会暮らしをしている場合も、遠くを見る必要は殆どありません。こういった時には、球面レンズで十分に満足できるケースも多いです。
まとめ
以上の通りで、まだまだ日本においても、けっこう球面レンズを使う人は多いです。価格差もあるし、球面レンズの扱いに慣れている眼鏡店の名職人さんも多いです。
それに子供などの近視や乱視は、一定段階に落ち着くまで、段階的に変化することが多いです。我が家の子供も、何度もレンズを製作しました。
このように何度もレンズを作ると、小さな価格差もジワジワと家計に影響して来ます。なかなか球面レンズも侮れません。
それに… 眼鏡レンズというのは相当厄介で、「この眼鏡フレームと設定がベスト」に落ち着くまで、紆余曲折することもあります。そういった時は、まずは球面レンズで様子見できると嬉しいです。
おまけに昨今は花粉症メガネも登場しましたが、それと似たように飛沫対策でメガネ着用を考える人も多いです。私も久しぶりに、単焦点レンズを使うようになりました。
性能的には非球面レンズの方が優れているし、価格的にも素晴らしいレンズや眼鏡店が増えてきましたが、なかなか簡単に球面レンズが消え去ることは無さそうに見えます。技術者のハシクレとしては、なかなか興味深い状況だったりします。
それでは今回は、この辺で。ではまた。
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記事作成:小野谷静