数年前まで高級眼鏡店へ通うことが多かったけれども、久しぶりに格安眼鏡店のお世話になった。特にZoffは初めてだったので、なかなか良い経験になった。
さて格安眼鏡店と高級眼鏡店、いったい何がどのように違うのだろうか。最近は格安眼鏡店でも良質なレンズや眼鏡フレームを扱うようになったので、両者の差が分かりにくくなって来た。
そこで今回は、あらためて両者を比較させて頂くことにする。ひとことで言えば、やっぱり高級眼鏡店は「お客様に高い満足度」を提供することが得意で、格安眼鏡店は「そこそこの出費で、そこそこの満足度」を提供することを得意としている。
まとめ
レンズ
もちろん予算に糸目を付けなければ、高級眼鏡店のレンズは恐ろしい。元上司たちは、15万円のレンズとか、10万円のレンズを使っていた。
もちろんレンズメーカーでも、最高クラスのレンズだ。我が家の奥さんも事情があって、お世話になった。10万円のレンズを2回… 財政破綻を覚悟するほどだ。
れんず屋さんでも10万円クラスのレンズを扱っているけれども、彼らは僕のような庶民を助けてくれる、眼鏡店の異端児的な存在だ。ただし、どんなレンズでも分け隔てなく平等に扱うというポリシー上、特別な販売契約の必要なレンズは扱っていない。
たとえばカールツァイスとか、ニコンのAIシリーズは取り扱っていない。逆に高級眼鏡店は、そういったレンズを集中的に取り扱って、様々なノウハウを蓄積し、高難易度の顧客要求に対応していく。
ただし顧客満足が最大テーマなので、それなりの種類のレンズを取り扱っている。自転車屋がロードレーサーとマウンテンバイクを扱うようなものだ。
この取り扱いレンズを1種類、または2種類くらいに絞っているのが、格安眼鏡店だ。ちなみに格安眼鏡店は、スリープライス店も呼ばれる。x,000円で眼鏡フレームとレンズ一式を購入できるという意味で、スリープライスと呼ばれるのだ。
しかしスリープライスだからといって、侮ることは出来ない。最近では東海光学やセイコーのレンズも扱っている。HOYAはHOLTが格安眼鏡店へのレンズ提供を担っているが、これも2022年3月時点では、決して侮ることが出来ない。
眼鏡レンズの技術革新は著しい。各社とも数年前には数万円だった非球面レンズを、5,000円レベルで提供開始している。遠近両用といった特殊レンズなど、20年前には、この世に存在しなかった高レベル製品だ。
もちろんレンズ性能が高ければ万事オッケーというものでないし、実際に僕が今まで使っていたのも、東海光学セレノという遺跡的レンズだ。ただし毎日のように高性能レンズを扱い、真面目に努力して経験値を上げた眼鏡店スタッフは恐ろしい。
そして「悪貨は良貨を駆逐する」でないけれども、取り扱い量が多ければ、その分だけ仕入れ値を下げることが出来る。イワキメガネやGlobe Specsなどには使えない戦法だ。それにレンズの性能に頼り切ることが出来ないので、職人としての技量を磨くのに役立つ。
ちなみにメガネコンシェルさんは格安レンズの性能比較をやっていたけれども、それはあまり意味がない。製品もビジネスも日進月歩なので、どんどんと価格もレンズも変わっていく。
僕の職場の最寄り駅には、JINS、Zoff、和真が出店している。そして自宅徒歩圏にはJINSと眼鏡市場があり、自転車で数分のところにあるスーパーには、Zoffが店舗を構えている。
Zoffのスタッフと会話をしたら、「いやー、JINSさんの非球面5,000円には圧倒されます」とのことだったけれども、Zoffは球面レンズを3,300円(10%税込み)で製作して貰える。
おまけにJINSの曇り止めオプションは最新タイプだけれども、5,500円(10%税込み価格)だ。一方でZoffの曇り止めコートは、3,300円(税込み)だ。
プリズムだとか特殊な対応は得意でないかもしれないけれども、我が家のお嬢さまや僕のように3D以下であれば、球面レンズで十分に満足できる。
そんな訳で、しばらく前からレンズに関しては、高級眼鏡店と格安眼鏡店の差が大幅に縮まっている。
眼鏡フレーム
さて眼鏡フレームについても、恐ろしいことが起こっている。しばらく前は金属フレームが主体だったけれども、最近はプラスチック製フレームが増えている。
金属製にしても、LindbergのAir Titaniumみたいな眼鏡フレームも登場している。もちろん眼鏡フレームは著作権や特許で保護されているけれども、似たようなものを作ることは近視… いや、禁止されていない。
だからジョニー・ディップが使っているような眼鏡フレームを、格安眼鏡店で見つけることは簡単だ。999.9(フォーナインズ)と同じく、耳元がリング状になって弾性を持たせている眼鏡フレームも見かけた。
だから今では、会社で行き違う人のメガネをチラっと見て、格安眼鏡店の眼鏡フレームであることを識別することは難しい。LindbergのSpiritツーポイント眼鏡フレームのように、レンズにブリッジの先端を突き刺すといった特長から区別するしかない。
そんな訳で、大抵の人は格安眼鏡店の眼鏡フレームで、十分に満足できてしまう。
ただし高級眼鏡店には、高級眼鏡店の強みがある。それはブランドだけの話ではない。
例えば高級眼鏡店では、レンズ製作機も高級型が設置されている。だからLindberg Air Titanium向けレンズのような、「深さ0.5mm、幅1mmのレンズ溝」といった特殊加工が可能だ。
一方で僕の知っている格安眼鏡店は、2020年3月時点で、「深さ0.3mm、幅0.7mm」のレンズ製作が限界だった。
ちなみにレンズ溝には、Lidberg Air Titaniumや、ナイロール紐でハーフリム眼鏡を作る以外の用途も存在する。例えば岸田総理はハーフリム眼鏡っぽく見せているけれども、あれはレンズ溝を塗装して、いかにもフレームが存在するように見せかけているのだ。
(だからテンプルとかブリッジの先端部分を、レンズに通して固定している… あれは実は、フチナシ(ツーポイント)眼鏡に過ぎないのである)
それから高級眼鏡店の眼鏡フレームは、「鯖江の業者などでフレームを修理して貰う」ということが可能だ。先ほどから登場しているLidberg Air Titaniumの針金チタンでさえ、折れた針金を接合してしまう。
お気に入りの眼鏡フレームというのは、なかなか見つけ出すことが難しい。かつて、「メガネは顔の一部です」というキャッチフレーズもあった。
そういう訳で、特に拘りがなければ格安眼鏡店で十分だけれども、こだわりがある者には高級眼鏡店が似合っている。白状すると、僕が高級眼鏡店のお世話になったキッカケも、眼鏡フレームだったりする。
検眼など
ここは高級眼鏡店と、格安眼鏡店で格差の生じる部分だ。昔に比べると大幅に改善しつつあるけれども、格安眼鏡店の検眼力は高くない。お客さんの悩みを理解する力も高くない。
僕に至っては、Zoffで花粉症メガネのフレームを購入しようとして、見事に6,600円を失う結果に至った。貧乏人としては、今でも悲しくて手が震えている。
ちなみに格安眼鏡店の関係者のために断っておくと、これは悪意ゆえの損失ではない。格安眼鏡店の運営システムの問題なのだ。
これは店舗を訪問した時から生じたことを、順を追って話すのが良いだろう。
まずZoffの店舗を訪問すると、最初に受付スタッフが対応してくれる。来店目的を確認し、ネットでのユーザ登録を事前に実施するなど、その後の作業をスムーズにするのだ。
ここで僕は、持参した花粉症メガネ(Mサイズ)を見せて、それを追加で購入したいと説明した。そしたら受付スタッフはアチコチを走り回った挙句、一本だけ在庫があったと渡してくれた。
結末から先に言ってしまうと、これはMサイズではなくてSサイズだった。ちなみにMサイズは女性やMサイズ男性向けフレームであり、Sサイズは子供用である。
そしてメガネフレームを2つ新調するということで、Zoff店舗の店長が自ら登場したものの、そのサイズの違いを気にすることは無かった。ちなみに持参フレームは遠くを見る用途で、新規購入フレームは机上作業用だった。
格安眼鏡店では、人件費を節約するために、分業体制で店舗運営している。だから最初に受付スタッフに説明した内容が、検眼担当の店長に、十分には伝わらなかった。
もちろん僕が改めて説明したけれども、混雑した店舗で、スタッフ総出なのに「こまやかな対応」は難しい。そして店長であっても、店舗によって検眼力は大きく異なる。ちょっと乱視軸の確認が今一つだったのか、微妙にハッキリとは見えない。
ちなみにZoffの名誉のために言っておくと、同時期に別店舗で眼鏡フレームを製作する機会があったけれども、こちらはバッチリだった。JINSでも同じ経験をしているけれども、全店長がスゴ腕という訳ではない。
ここら辺は人件費を節約しない高級眼鏡店の方が、確実に良質な対応を受けることが出来る。だから家族は高級眼鏡店を好み、格安眼鏡店には行こうとしない。
彼女は繊細なので、混雑して慌ただしいJINSやZoffなどの店舗で、眼鏡店スタッフとやりとりするのを苦手としている。唯一クーレンズというお店で、開店時間の10時に予約訪問して眼鏡フレームを作成したことがある程度だ。
ただし格安眼鏡店であっても、経験豊富なベテラン店長が、ゆっくりと家族の話を聞いて製作した眼鏡フレームは頼もしい。
実は我が家族、最近は自宅内では、高級眼鏡店の15万円メガネに手を出すことなく、2万円くらいだったクーレンズの眼鏡フレームを愛用している。JINSやZoffの東海光学やセイコーに近いレンズだけれども、十分に満足している。
まとめ
以上の通りで、格安眼鏡店と高級眼鏡店の違いは、『高級眼鏡店は「お客様に高い満足度」を提供することが得意で、格安眼鏡店は「そこそこの出費で、そこそこの満足度」を提供することを得意としている』となる。
そして上記の通りで、これはあくまで一般論に過ぎない。タイミングを上手に選んで、こちらの悩みを的確に理解して貰うことが出来れば、職人技によってレンズ性能差は帳消しにされてしまう。
最近ではJINSもZoffもベテラン職人を採用して、マニュアルを作成して人材育成しているけれども、「育てられるよりも自分で育った人材」の実力には及ばない。予算に十分余裕があれば、高級眼鏡店へ行くのが無難だろう。
(同じ設定をパクっても、眼鏡フレームやレンズによって、見え方が大きく変わってしまうのは眼鏡七不思議だ。いや、ベテラン職人のスキルを評価すべきだろうか)
それでは今回は、この辺で。ではまた。
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記事作成:小野谷静